城門は朝霧の中で、ゆっくりと開いていった。門扉を支える軸の軋みには、三百年もの歳月を経たとは思えぬほどの生々しさがあった。まるで昨日、誰かが油を差したばかりであるかのようだった。ブダナシャは門前に立ったまま、すぐには中へ入らなかった。三百年という時間は、一つの王朝を伝説へ変え、街道の位置を変え、河川の流れさえも変え、かつて栄華を誇った都市を人々の記憶から完全に剥ぎ取るには十分すぎる歳月である。それにもかかわらず、眼前の門だけは、あまりにも異様な完全さを保ったまま、彼女を待っていた。門の向こうには衛兵も旅人もなく、鳥獣の気配さえない。ただ灰白色の石板を敷き詰めた長い大通りだけが、都市の最奥へ向かって真っ直ぐに伸びていた。
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ブダナシャが門をくぐった瞬間、背後に立ち昇っていた黒煙が唐突に消えた。振り返れば、先ほどまで確かに存在していた荒丘はすでに姿を失い、その代わりに高々とした城壁が聳え立っている。城壁には亀裂一つなく、城頭には三百年前のものと思われる旗までが翻っていた。ブダナシャはその旗へ手を伸ばした。粗い繊維が指先に触れ、わずかな埃を残す。いかなる幻術の気配も感じられなかった。その事実が、かえって彼女を警戒させた。真に恐ろしいものとは、偽りの幻影ではない。存在するはずのないものが、あまりにも確かな現実としてそこに在ることなのだ。
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街路の両側に並ぶ店々は、すべて固く閉ざされていた。それにもかかわらず、窓越しには腐敗することなく残されたパン、止まったままの時計、途中まで記された帳簿などが見える。仕立屋の前を通り過ぎたとき、彼女は店先の机に一本の針が置かれているのを見つけた。針穴には、濃い藍色の糸がまだ通されたままだった。その瞬間、彼女の胸に奇妙な感覚が生じた。まるで都市全体が死んだのではなく、すべての住人が同じ瞬間に生活そのものを中断したかのようだった。彼女が街路を進み、中央広場へ差しかかったとき、ようやく最初の人影が現れた。
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それは一人の若い女だった。三百年前の侍女が身につけていたものと寸分違わぬ衣装をまとい、石段にしゃがみ込んで銅盆を磨いている。ブダナシャを見ても驚かず、どこから来たのかと問うこともなかった。ただ顔を上げ、静かに告げた。「遅かったですね」。ブダナシャが、どれほど待ったのかと尋ねると、女は何の感慨もなく答えた。「三百七年です」。あまりにも平然とした返答だった。その女は立ち上がり、銅盆を傍らへ置いた。そして都市の奥を見つめながら言った。「陛下は、あなたが必ず帰ってくると仰っていました」。
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「どの陛下?」ブダナシャが問うても、女は答えなかった。ただ彼女を幾つもの静まり返った路地へと導いていった。進むにつれて、次第に多くの住人が姿を現した。老人もいれば子供もいる。職人の衣服をまとった者もいれば、宮廷の礼装を身につけた者もいた。彼らは皆、三百年前と変わらぬ姿をしていた。誰も老いていない。誰も生まれていない。そして誰一人として死んでいない。さらに奇妙だったのは、彼ら自身がその異常を異常として認識していないことだった。まるで三百年という歳月など、少々長すぎる一日の午後に過ぎないとでもいうように。
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やがて彼女は、一つの黒い宮殿の前へ導かれた。大扉は開け放たれていたが、その内部に玉座はなかった。ただ一つの長卓が置かれ、その上に、まだ開封されていない一通の手紙が置かれていた。封蝋には、彼女の知らぬ紋章が刻まれている。女はそれを取り上げ、ブダナシャへ差し出した。「陛下から、あなたへ」。彼女が封を切ると、中には僅かな数行しかなかった。「不達那希亞。もしお前がここへ帰ってきたのなら、我々のあの日の選択が完全な失敗ではなかったということだ。ただし、誰も信じるな。私自身さえも」。
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読み終えたブダナシャは、顔を上げた。「国王はどこにいるの?」女は宮殿の最奥を指差した。ブダナシャは一人でその先へ進み、窓のない円形の部屋へ辿り着いた。そこには、一体の骸骨が玉座に座っていた。頭蓋には王冠が残され、両手は膝の上で静かに重ねられている。その姿勢は、死後三百年を経てもなお奇妙なほど端正で、厳かな威厳さえ帯びていた。玉座の背後には王旗も紋章もなく、ただ巨大な壁画だけが描かれていた。そこに描かれていたのは三百年前の王都。そして都市の中央には、幾重もの翼を持つ一人の少女が立っていた。
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ブダナシャは、その絵を見つめたまま長いこと動かなかった。描かれていた少女は現在の彼女とは違っていた。まだ幼く、その瞳には、今の彼女にはほとんど異邦人のものにしか見えないほど澄んだ光が宿っている。少女は王の傍らに立ち、災厄を記録する羊皮紙を手にしていた。壁画の下には、一文が刻まれている。「彼女は王国を守る者ではない。王国が滅びるその時、ただ一人、忘却を許されぬ者である」。ブダナシャがその文字へ手を触れた瞬間、脳裏の奥底を一つの異様な光景が掠めた。幾千もの人々が城門の外に立ち、彼女自身は城壁の上に立っている。
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それは記憶ではなかった。まだ輪郭すら定まっていない、断片的な何かだった。炎が見える。しかし、誰が火を放ったのかは分からない。王旗が地へ落ちている。しかし、誰が王座を倒したのかは分からない。無数の人々が彼女へ手を伸ばしている。しかし、彼らが何を叫んでいるのかは聞こえない。そして最後に、若き日の自分が振り返り、玉座の国王へ向けて何かを告げている姿だけが残った。「私がここに残れば、全員が死ぬ」。その言葉を最後に、光景は唐突に途切れた。
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ブダナシャが現実へ戻ったとき、宮殿の中にはすでに大勢の人々が集まっていた。彼らはいつの間にか全員そこへ集まり、誰一人として言葉を発していない。ただ彼女を見つめていた。その眼差しには期待も憎悪もなかった。そこにあったのは、あまりにも長い歳月を待ち続けた者だけが持つ、深い疲労だった。やがて、最初に彼女を迎えた女が口を開いた。「私たちは、救援を待っていたのではありません」。
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「では、何を待っていたの?」ブダナシャが問う。女は王座に残された骸骨を見た。「最後に真実を知る者が帰ってくるのを、待っていたのです」。その言葉を聞いた瞬間、ブダナシャはようやく理解した。この都市に三百年間封じられていたのは、亡国の民の魂などではない。一つの問いだった。三百年前、王朝そのものの運命を変えてしまうほど重大な選択がなされ、その決断が下された瞬間に、すべての住人が取り残されたのである。
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彼女は玉座の前へ歩み寄り、骸骨の手からもう一巻の羊皮紙を取り上げた。紙を開いた瞬間、その末尾に見慣れた筆跡が現れた。それは、彼女自身の筆跡だった。そこに記されていたのは、たった一文だけである。「私は、この都市を滅ぼした者を知っている」。
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ブダナシャはその一行を見つめたまま、すぐに答えを求めようとはしなかった。ただ静かに羊皮紙を巻き戻し、三百年もの間ここで待ち続けた人々を見渡した。そのとき彼女は初めて悟った。この都市に閉じ込められている本当のものは、亡国の民の魂ではない。かつて自分自身が持ち去り、それ以来、一度たりとも開く勇気を持てなかった秘密なのだと。
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そして、その秘密の第一頁には――ほかならぬ彼女自身の名が記されていた。
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