名もなき都市を去った後、ブダナシャは荒涼たる海岸線に沿って南へ進んだ。三日間、雨は一滴も降らなかったにもかかわらず、空は冷え切った鉛のように重く垂れ込めていた。四日目の朝、海霧の向こうに白い町が現れた。そこには鐘の音も、子供たちの笑い声も、漁船の帰港を知らせる活気もなかった。すべての窓と扉は閉ざされ、街路だけが不自然なほど清潔に保たれていた。
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最初に入った宿屋で、女主人は彼女の姿を見つめたまま尋ねた。「誰かを探しているのかい。」ブダナシャは首を傾げた。「分かりません。」女主人は続けた。「では、自分がどこから来たのかは分かる?」彼女は少し考えてから微笑んだ。「ええ。さっきまでいた場所から来ました。」その答えを聞いた女主人は、突然涙を流した。彼女は三十年もの間、亡き夫の顔を思い出せずにいたのである。
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ブダナシャは間もなく、この町に存在する異常を理解した。人々は記憶そのものを失っているのではない。人生の中から、特定の時間だけが切り取られていた。母の最期の言葉を覚えていない老人。結婚式を挙げたことは知っているのに、その日の空模様を思い出せない夫婦。そして、自分に子供がいた事実だけを知りながら、その子が初めて「父」と呼んだ声を失っている者。
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町の中央には、針を持たない巨大な時計塔が立っていた。ブダナシャが冷たい石壁へ手を触れると、地中深くを流れる異質な魔力が指先へ伝わってきた。それは時間を止める力ではない。人間の生涯から一部分だけを抜き取り、現世とは異なる場所へ保存する力だった。彼女の眼差しから、初めて穏やかさが消えた。
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「なるほど。」彼女は空白の文字盤を見上げた。「誰かが、時間を食べている。」すると塔の内部から低い笑い声が響いた。黒い階段の上から、灰色の外套をまとった男が姿を現す。顔は存在せず、そこには滑らかな白い皮膚だけが広がっていた。「食べているのではない。」男は訂正した。「保存しているのだ。人間は大切なものを失う。だから私は、それを代わりに保管している。」
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ブダナシャは攻撃しなかった。「自分で忘れてしまったものが、なぜなお本人のものだと分かるのです。」無貌の男は答えた。「記憶は朽ちる。私が保存すれば、永遠に完全なままでいられる。」その言葉とともに、塔の内部に無数の透明な球体が浮かび上がった。そこには幼子の笑い声、母の子守歌、恋人たちの誓い、そして死者が最後に開いた瞳までもが封じられていた。
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その中の一つに、一人の少女が映っていた。海辺に座り、古びた木の人形を抱え、若い母親へ何かを語っている。その母親の顔は、先ほどの宿屋の女主人と同じだった。ブダナシャはすぐに理解した。それは彼女から奪われた時間だった。彼女は過去の事情を問いただすことなく、ただ手を伸ばした。
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銀色の天秤が掌に現れる。左の皿には「忘却」、右の皿には「記憶」と刻まれていた。二つの皿は激しく揺れた。無貌の男は笑った。「すべて返せば、彼らは再び愛する者を失った苦しみを味わう。それでも記憶を返すのが正しいというのか。」ブダナシャは目を伏せた。今度ばかりは、すぐに答えることができなかった。
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透明な球体を見つめながら、彼女は理解した。記憶は幸福でも苦痛でもない。ただ、その人間が確かに生きたという証なのだ。何を覚え、何を忘れるべきかを他者が決めるなら、奪われるのは記憶だけではない。その人自身の人生を所有する権利まで奪われてしまう。
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「私が決めることではありません。」彼女は静かに言った。「今回は、忘れることさえ私が選ばせない。」八対の翼の向こうで空間が震え、第九、第十、第十一の翼が次々と展開された。時計塔に保存されていたすべての時間が一斉に鳴り響く。その音は、長い眠りから目覚めた無数の河川が、再び源流を求めるようでもあった。
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無貌の男は初めて恐怖を見せた。「それはできない。あの記憶は、すでに本来の時間を離れている。」ブダナシャは掌を上げた。「だからこそ、戻すのです。」彼女は塔を破壊しなかった。代わりに塔全体の時間を三十年前へと逆流させた。石壁は崩壊する以前の姿へ戻り、積もった埃は地面へ帰り、封じられていた球体は一つずつ砕けていった。
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街路では、老人が突然膝をついた。誰かは忘れていた名前を叫び、誰かはもう存在しない子供へ手を伸ばし、誰かはただ目を閉じて微笑んだ。それは幸福を与える魔法ではなかった。完全な人生が本来持つべき権利を、本人へ返すだけの行為だった。
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宿屋の女主人は海辺に立ち、長い間、潮の満ち引きを眺めていた。やがて彼女は、幼い娘が初めて自分へ駆け寄った姿を思い出した。そして夫が死ぬ直前に口にした、ごく平凡な一言さえ思い出した。彼女はそれから長い間泣いた。だが涙が尽きた後、初めて自分が誰を失ったのかを知り、その人生へ静かな別れを告げることができた。
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時計塔の無貌の男は、次第に灰となって崩れていった。ブダナシャは彼を殺したわけではない。その存在自体が、無数の人々に捨てられた記憶の集積だったからである。消滅の間際、彼は尋ねた。「もしお前自身が、いつか自分の家を忘れたら、どうする。」ブダナシャは朝の光の中で、しばらく沈黙した。
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「そのときは、また探します。」彼女は答えた。「忘れてしまったのなら、最初の一歩から始めればいい。」背後の翼がゆっくりと閉じていく。海風が長い髪を揺らしていた。彼女は家を見つけたわけではない。しかし初めて、帰るということは、自分がどこに属していたかを記憶することだけではなく、忘却の後にもなお、もう一度どこかへ歩き出すことなのかもしれないと知った。
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町を去ろうとしたとき、宿屋の女主人が追いかけてきた。小さな袋に乾燥食を詰め、「助けてもらったのだから、これくらいは持っていきなさい」と手渡した。ブダナシャは袋を見下ろし、珍しく素直に笑った。「では、いただきます。」彼女はそれを懐へしまった。その瞬間、その小さな袋が不思議なほど軽く感じられた。
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海岸の果てでは、朝日が雲間から差し込み、濡れた大地を淡い金色へ染めていた。ブダナシャは一人で光の中を歩き、ときおり振り返っては、再び鐘を鳴らし始めた町を眺めた。だが彼女は立ち止まらなかった。前方にはまだ知らぬ道があり、その未知のどこかには、きっと誰かが助けを待っている。
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「帰るべき道……。」彼女は小さく呟き、そして苦笑した。「本当に、厄介なものですね。」そう言って八対の翼を広げ、海風の彼方へ飛び立った。次に誰を救うことになるのか、自分自身が最後にはどこへ辿り着くのか、彼女にはまだ分からない。
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けれど、答えを急ぐ必要はもうなかった。
なぜなら、すべての道が終着点へ至るためだけに存在するわけではないからだ。
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ある道はただ、世界から忘れられた者たちが、長い歳月の果てにもう一度、「私は確かに、ここに生きていた」と語るために存在している。
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