赤河の戦いから五年が過ぎた頃、王国はかつてない繁栄を迎えていた。北境から戦火の煙はすでに消え、焼け落ちた村々には新たな家々が築かれ、長く荒れ果てていた田畑にも再び人々の手が入るようになった。王は各地に街道を整備させ、河川を浚い、学校を建て、さらにかつて民を苦しめていた土地税を大幅に軽減した。南北の街道には商隊が行き交い、港には貨物を満載した船が絶えず出入りする。人々はもはや王宮を恐怖の象徴として語らず、むしろ深い敬意を込めて自らの君主を語るようになっていた。
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それでも王は満足しなかった。朝には大臣を招き、昼には工房や農村を巡察し、夜には地方から届けられた奏状を自ら読み続けた。年月が過ぎても、その容貌には老いの影がまったく現れなかった。かつて共に戦場へ赴いた将軍の髪には白いものが混じり、若き日に玉座の前へ跪いた臣下たちは、今では祖父となり、あるいはすでに王国の大地へ還っていた。それにもかかわらず、王だけはあの日から何ひとつ変わらない。まるで歳月というものが彼の傍らを通り過ぎることは許されても、その身に触れることだけは許されていないかのようだった。
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当初、人々はそれを神々から授かった恩寵だと考えた。やがて「不死の王」の噂は遠方の国々にまで広がった。天神の加護を受けた者だという者もいれば、古代の英雄が転生したのだという者もいた。しかし王自身は、いかなる説も認めなかった。己が老いないこと、そして傷が尋常ならざる速さで癒えることだけを知っていた。それ以上の意味を、この異常な生命に与えようとはしなかった。むしろ自らを神として崇めることさえ禁じた。王が自分を人間以上の存在だと思い始めたなら、再び傲慢へと堕ちるに違いないと考えていたのである。
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だが、歳月は容赦なく人々を奪っていった。かつて城南の市場で野菜を売っていた老人も、静かな冬の夜に生涯を終えた。知らせを受けた王は、自ら葬儀へ赴いた。墓は城南の緩やかな丘にあり、そこからはかつて賑わっていた市場と、果てしなく広がる田野を望むことができた。王は墓前に長く立ち尽くし、最後に一束の野花を自ら供えた。そのとき初めて、彼は理解した。国を守れば、愛するすべての人を守れると思っていた。しかし死はなお人々を連れ去ってゆく。王にはただ、その背中を見送ることしかできなかった。
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その日、彼は初めて、不死が恩寵ではないのだと感じた。
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王宮へ戻った後、王は後継者について考えることが多くなった。もし自分が永遠に死なないのなら、そもそも王位を継ぐ者など必要なのだろうか。最初は書斎の中だけに存在した疑問だった。しかしやがて、それは毎日のように彼の胸を占めるようになった。歴代王家の系譜を紐解けば、そこには生まれ、即位し、老い、死に、そして子へ王座を譲っていった無数の君主たちの名が並んでいる。そのたびに王権の交代は、新たな野心や派閥、そして新たな過ちを生み得た。自らのかつての愚かさを思えば思うほど、王はもう一度あのような災厄を国家に許してはならないと考えるようになった。
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「余が生き続ける限り、愚王は生まれない。」
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静かな書斎で、王はそう呟いた。その言葉は一見すれば合理的であり、民に対する責任ある誓約のようにも聞こえた。しかし王はまだ気づいていなかった。「国を守ること」と「国を永遠に掌握すること」が、彼の中で少しずつ同じ意味へ変わり始めていることに。彼は世襲貴族の権力を削り、地方軍を王室の直接統轄下へ置き、行政機構を再編した。重要な役職に就く者は、すべて王自身に責任を負う制度となった。改革は当初、確かに国家を強固にした。腐敗は減少し、行政は迅速になり、王国の秩序は以前にも増して安定した。
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しかし、善意ある君主が永遠に正しいという保証はどこにもない。王の問題は現在の善政にあるのではなかった。彼は次第に、自らの善意そのものが永遠の統治を正当化する根拠になると考え始めていたのである。愚王の即位を防ぐだけではない。自分以外の誰かが国家の運命を決めることそのものを、次第に危険だと思うようになった。ある老臣が後継者を育てるべきだと婉曲に進言したとき、王は長い沈黙の後、ただ一言だけ答えた。「余は、まだ死んでおらぬ。」
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老臣は深く頭を下げ、それ以上何も言わなかった。
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その年、王国は新たな王室法典を制定した。その中で最も議論を呼んだ条文は、王位継承制度に関する改定であった。現王が存命である限り、新たな王を立ててはならない。もし王が永遠に死なないのであれば、王位もまた永遠に同じ一人の人間に属することになる。臣下の中には喜ぶ者もいれば、密かな恐れを抱く者もいた。そして何人かは、その制度の奥に潜む不穏な意味を感じ取っていた。しかし王自身は、自分がただ「死なない君主」として国家から危険な権力の空白を取り除いたに過ぎないと考えていた。
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その知らせが民間へ伝わったとき、最初は大きな波紋を生じなかった。民はこの王を愛していた。道は整い、食糧は豊かで、子供たちは学舎へ通い、農夫たちは突然の追加徴税を恐れずに済むようになった。普通の人々にとって、賢明で老いることのない王が玉座に居続けることは、むしろ幸福なことに思えた。やがて人々は信じ始めた。この王が永遠に玉座に座っている限り、王国もまた永遠に平和でいられるのだと。
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王もまた、その考えによって自らの選択を確信するようになった。
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彼は新たな王宮を建て始めた。それは豪奢さを求めたものではなく、永続性を求めたものだった。宮殿には最も堅牢な石材が用いられ、地下には巨大な文書庫が造られ、法律、人口、土地、農業、軍事に関する記録が永久に保存されることとなった。さらに王は宮殿の最深部に、朽ちることのない玉座を造らせた。自ら工匠たちの作業を監督し、その玉座には黒く重厚な石材を用い、背面には王国の山河と街道を彫り込ませた。
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完成した日、王はただ一人、その玉座に座った。
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誰もいない大広間を見渡したとき、王の胸には言い知れぬ安堵が広がった。ここに座していれば、国の未来を見渡せる。自分が倒れない限り、国もまた倒れない。その考えは、かつてないほどの安心を彼に与えた。しかし王は気づかなかった。自らが愛する国家と「玉座」というものが、少しずつ心の中で重なり始めていることを。そして「民を守る」という理念が、密かに「民を永遠に自分へ従わせる」という思想へ変質し始めていることを。
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そのとき、宮殿の外から鐘の音が聞こえた。
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戦争を告げる警鐘ではない。豊穣を祝う民の鐘であった。王が窓辺へ歩み寄ると、街路には花籠を抱えた人々が溢れていた。子供たちは両親の傍らを走り、農夫たちは今年最も良い穀物を市場へ運び、商人たちは威勢よく客を呼んでいる。夕陽は人々の姿を温かな黄金色に染めていた。王はその光景を見つめ、久しく忘れていた笑みを浮かべた。そして思った。これこそが、自分が永遠に統治する意味なのだ。民が幸福である限り、自分は永遠に玉座に座り続ける。国が安らかである限り、自分は永遠にここを離れる必要がない。
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しかし、その二つの言葉の間には、すでに極めて細い亀裂が走っていた。
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夜が深まり、王宮が静寂に包まれた後も、王は新たな玉座に座り続けた。灯火を増やすことはせず、窓から差し込む月光だけを肩に受けていた。彼は死の直前の夜を思い出していた。炎の中で天地へ誓ったあの願いを思い出していた。民が故郷へ戻れるのであれば、いかなる代償も支払うと誓った。そして今、民は帰ってきた。国は再び繁栄し、自分には永遠の生命さえ与えられている。
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だからこそ、王は自分があの誓いを裏切ってはいないと信じていた。
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月明かりの下、遠い田野が静かに広がり、河川は王国を貫いて流れ、街の灯火が一つ、また一つと消えていった。国家全体が深い夜へ沈む中、土地だけはなお無数の人々の呼吸を静かに受け止めていた。王には何の異変も見えず、何の声も聞こえない。ただ窓外を眺めながら、静かに呟いた。「案ずるな、我が民よ。余が生きている限り、そなたらは永遠に恐れる必要はない。」
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その言葉にも、王国は答えなかった。
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ただ月光に照らされた山河だけが、その夜、いつもより鮮やかに輝いていた。
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